トランスジェニックグループでは、大学や研究機関で樹立、解析された遺伝子改変マウスについてのライセンス許諾を受けて、非臨床試験受託をご提供しています。
※価格は試験内容によります。ご相談ください。
※各種試験は主にトランスジェニックグループ、株式会社新薬リサーチセンターで行います。
トランスジェニック社では、これらのモデル以外に、オーストリアQPS社における神経変性疾患の遺伝子改変病態モデル動物を用いた非臨床試験受託も、日本代理店としてご提供しておりますリンクページをご覧ください。
アルツハイマー病とアミロイド仮説
アルツハイマー病は認知機能低下を主な症状とする進行性の神経変性疾患で、その特徴的な脳内病理変化としてアミロイドβ(Aβ)の不溶性凝集体の蓄積である老人斑の形成、タウタンパク質の不溶性凝集体の蓄積である神経原線維変化 (neurofibrillary tangle, NFT) の形成、脳萎縮が知られています。
アルツハイマー病の発症機序を説明するものとして、次のようなアミロイド仮説が知られています。
オリゴマー仮説とOsaka変異
初期のアミロイド仮説においては老人斑中の不溶性凝集体であるAβフィブリルによる神経細胞死によって認知機能低下が引き起こされていると考えられていました。その後、細胞死誘導に必要なAβ濃度が生体内の条件に比べて高すぎること、アルツハイマー病患者の疾患重篤度と脳内のAβフィブリルの量と相関していないことから、Aβフィブリル以外のものが毒性を持っている可能性が示唆されました。
これらのことから、生理的な濃度でシナプス機能の障害を引き起こすAβオリゴマーが病態の発症に重要であるとする「オリゴマー仮説」が提唱されました。しかし、アルツハイマー病患者の脳内には、Aβオリゴマーと同時にAβフィブリルも存在することから、どちらがアルツハイマー行発症に寄与しているのかを検証することは難しい問題でした。
大阪市立大学の富山貴美先生、森啓先生らのグループは、2008年に家族性アルツハイマー病の新しい遺伝子変異を報告しました。Osaka変異と名付けられたこの遺伝子変異は、アミロイド前駆体タンパク質 (amyloid precursor protein, APP) における1アミノ酸の欠失型変異です (APPosk, E693Δ)。APPoskから産生されるAβは1アミノ酸を欠失した変異型Aβ (E22Δ) となり、Aβフィブリルを形成せず、Aβオリゴマーを非常に多く形成するという特徴を有していました。Osaka変異を持つアルツハイマー病患者の脳には老人斑が検出されず、この発見によってAβオリゴマーのみでアルツハイマー病が発症することが初めて証明されました。
平均値±標準誤差を表す.*p<0.05,** p<0.01 t-test
APPosk-Tgマウス
ヒトAPPosk変異タンパク質を脳内で発現するトランスジェニックマウスがAPPosk-Tgマウスです。APPosk-Tgマウスでは、加齢に伴って脳内にAβオリゴマーの蓄積が検出されますが、24ヵ月齢においても老人斑は見られません。しかし、このマウスでは、シナプス消失、タウの異常リン酸化、グリア細胞の活性化、神経細胞死といった多くのアルツハイマー病の病理が見られます。このことから、APPosk-TgマウスはAβオリゴマーがアルツハイマー病理を引き起こすオリゴマー仮説を支持するモデルとなりました。さらにこのモデルマウスは、Aβオリゴマーによるアルツハイマー発症の病態をターゲットとする治療法、創薬の研究に用いることが可能です。
< 文献 >
■ Tomiyama T., Nagata T., Shimada H., Teraoka R., Fukushima A., Kanemitsu H., Takuma H., Kuwano R., Imagawa M., Ataka S., Wada Y., Yoshioka E., Nishizaki T., Watanabe Y. and Mori H.
A new amyloid β variant favoring oligomerization in Alzheimer's-type dementia. Ann. Neurol. 63, 377-387 (2008).
■ omiyama, T., Matsuyama, S., Iso, H., Umeda, T., Takuma, H., Ohnishi, K., Ishibashi, K., Teraoka, R., Sakama, N., Yamashita, T., Nishitsuji, K., Ito, K., Shimada, H., Lambert, M.P., Klein, W.L. and Mori, H.
A mouse model of amyloid β oligomers: Their contribution to synaptic alteration, abnormal Tau phosphorylation, glial activation, and neuronal loss in vivo. J. Neurosci. 30, 4845-4856 (2010).
■ Umeda T., Ono K., Sakai A., Yamashita M., Mizuguchi M, Klein W.L., Yamada M., Mori H. and Tomiyama T. Rifampicin is a candidate preventive medicine against amyloid β and tau oligomers.Brain 139, 1568-1586 (2016).
< 特許 >
■ 特許第4776544号「変異型アミロイドタンパク質」
BDNFと精神・神経疾患
神経栄養因子の一つである脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor) は、うつ病をはじめとした様々な精神・神経疾患に関与するものとして近年注目されています。BDNFは脳内における神経回路網の形成や発達、さらにその生存に重要であること、また、シナプスの可塑性にも関与し記憶や学習の形成において重要な役割を果たしていることが示されてきています。BDNFは前駆体であるproBDNFからプロテアーゼによって切断され、成熟型のBDNF (matureBDNF) が生成されます。matureBDNFはチロシンキナーゼ受容体TrkBに結合し、細胞生存、細胞分化、シナプス形成などを誘導しますが、proBDNFは別の受容体であるp75NTRに結合し、アポトーシス、神経突起伸長抑制などをもたらします。
proBDNF KIマウス
産業技術総合研究所の小島正己先生らは、proBDNFからmatureBDNFへのプロセッシング障害が、精神・神経疾患に関与するのではないかと考え、このプロセッシングを抑制する変異を導入したノックインマウスを作製しました。
このマウスは尾懸垂試験および強制遊泳試験において無動化時間が長期化するうつ病様の表現型を示します。うつ病をはじめとする精神・神経疾患のご研究に、本マウスを用いた行動試験をお役立て下さい。
< 文献 >
■ Mizui, T., Ishikawa, Y., Kumonogoh, H. and Kojima, M.
Neurobiological actions by three distinct subtypes of brain-derived neurotrophic factor: Multi-ligand model of growth factor signaling.Phamacol. Res. 105, 93-98 (2016 review).
■ Mizui, T., Ishikawa, Y., Kumanogoh, H., Lume, M., Matsumoto, T., Hara, T., Yamawaki, S., Takahashi, M., Shiosaka, S., Itami, C., Uegaki, K., Saarma, M. and Kojima, M.
BDNF pro-peptide actions facilitate hippocampal LTD and are altered by the common BDNF polymorphism Val66Met.Pro. Nat. Aca. Sci. 112, E3067-3074 (2015).
Koshimizu, H., Hazama, S., Hara, T., Ogura, A. and Kojima, M. Distinct signaling pathways of precursor BDNF and mature BDNF in cultured cerebellar granule neurons.Neurosci. Letters 473, 229-232 (2010).
■ Koshimizu, H., Kiyosue, K., Hara, T., Hazama, S., Suzuki, S., Uegaki, K., Nagappan, G., Zaitsev, E., Hirokawa, T., Tatsu, T., Ogura, A., Lu, B. and Kojima, M.
Multiple functions of precursor BDNF to CNS neurons: negative regulation of neurite growth, spine formation and cell survival.Mol. Brain 2, 27 (2009).
< 特許 >
■ 特許第5414012号 「変異BDNF遺伝子導入ノックインマウス」
BDNFと精神・神経疾患
認知症にはアルツハイマー病以外にも様々なものが知られていますが、そのうち「第17染色体遺伝子に連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性前頭側頭葉認知症 (Frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17, FTDP-17)」は常染色体優性で遺伝することが知られる疾患です。FTDP-17は運動障害並びに認知機能障害が通常40~60歳で発症し、一定年数の間で深刻な認知症に進展することが知られています。FTDP-17は運動障害並びに認知機能障害が通常40~60歳で発症し、一定年数の間で深刻な認知症に進展することが知られています。FTDP-17はタウタンパク質の異常によるものであることが知られています。タウタンパク質の異常蓄積は神経死に直接関連していると考えられており、アルツハイマー病の原因とも考えられています。FTDP-17においてタウタンパク質における遺伝子変異は複数報告されていますが、その一つがpoint mutationでアミノ酸置換が起こるN279K変異です。
< 文献 >
■ Taniguchi, T., Doe, N., Matsuyama, S., Kitamura, Y., Mori, H., Saito, N. and Tanaka, C.
Transgenic mice expressing mutant (N279K) human tau show mutation dependent cognitive deficits without neurofibllary tangle formation. FEBS letters 579, 5704-5712 (2005).
< 特許 >
■ JP2011043428A「非ヒトモデル動物を用いたパーキンソン症候群の検査方法」
NASH
非アルコール性脂肪肝炎(NASH: NonAlcoholic SteatoHepatitis) は、過食、運動不足、肥満(特に内臓脂肪型)、糖尿病、脂質異常症などに合併した脂肪肝を背景として発症する肝炎です。NASHの病態は単に幹細胞に脂肪が蓄積するだけでなく、肝臓に炎症や線維化が惹起されやすくなり、肝硬変や肝臓がんに進行するケースもあります。NASHの患者数は、国内で300万人以上、米国では3,000万人と推定されていますがその対策は十分ではありません。また、近年ではNASHから進行した肝臓がんが増加傾向にあります。
< 文献 >
■ Kurokawa, J., Arai, S., Nakashima, K., Nagano, H., Nishijima, A., Miyata, K., Ose, R., Mori, M., Kubota, N., Kadowaki, T., Oike, Y., Koga, H., Febbraio, M., Iwanaga, T. and Miyazaki, T.
Macrophage-derived AIM is endocytosed into adipocytes and decreases lipid droplets via inhibition of fatty acid synthase activity. Cell Metabol. 11, 479-492 (2010).
■ Maehara, N., Ara, S., Mori, M., Iwamura, Y., Kurokawa, J., Kai, T. Kusunoki, S., Taniguchi, K., Ikeda, K., Ohara, O.,Yamamura, K. and Miyazaki, T.
Circulating AIM prevents hepatocellular carcinoma through complement activation. Cell Rep. 1, 61-74 (2014).
アトピー性皮膚炎とIL33
アトピー性皮膚炎は、アレルギー反応と関連する皮膚の炎症を伴う疾患で、慢性的に繰り返す皮膚炎と激しいかゆみを主症状とします。患者数は人口の約10~20%にも達するといわれており、社会問題ともなっています。アトピー性皮膚炎の原因としては、これまで様々な説が提唱されていますが、完全には解明されていません。
IL33は、様々な臓器の上皮細胞や血管内皮細胞の核内に局在し、細胞外へ放出されてリンパ球、肥満細胞、好塩基球、好酸球などの免疫系細胞を活性化するインターロイキンです。花粉症や喘息、鼻炎といったアレルギー疾患、関節炎、糖尿病、炎症性腸疾患など、免疫系が関与する様々な疾患に幅広く関与していると考えられています。アトピー性皮膚炎の皮膚においても、IL33は多く産生されていることが知られています。
< 文献 >
■ Imai, Y., Yasuda, K., Sakaguchi, Y., Haneda, T., Mizutani, H., Yoshimoto, T., Nakanishi, K., Yamanishi, K.
Skin-specific expression of IL-33 activates group 2 innate lymphoid cells and elicits atopic dermatitis-like inflammation in mice. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 13921-13026 (2013).
< 特許 >
■ PCT/JP2014/061931「アトピー性皮膚炎モデル動物及びその用途」